グラン・ヴァカンス―廃園の天使<1>

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[ E-3 Zuiko Digital 14-54mm F2.8-3.5 ]

80年代サイバーパンクよりすっかり慣れ親しんだ仮想空間。
思い出のような、古き良き時代の夏休みの1日という情景描写の美しさ。
それが1000年も続いているというシチュエーションの面白さ。
それが、どうしてこうまで、こうまで残酷な残虐な方法で破壊されなければならないのか。
なんなんだ!?

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グラン・ヴァカンス―廃園の天使<1> 飛 浩隆 (著)

仮想リゾート“数値海岸”の一区画“夏の区界”。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。謎の存在“蜘蛛”の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける―仮想と現実の闘争を描く『廃園の天使』シリーズ第1作。

ともかく、圧倒的。
その丹念な描写。世界とキャラクター=AIは織りなされ、物語は緻密な絵画のよう。
そう、スピード感のあるストーリーではない。巨大な絵画を、隅々までゆっくりと眺めているような感じ。
しかし、退屈なんか許されない。目を離すことは出来ない。
読み手は、五感の官能度=解像度を強制的に増幅され、
否応なく、このヴァカンス=夏休みのほんとうの姿を、知ることになる。
凄まじい文章の一つ一つが、無駄なく、鋭利に、甘美に、人間をえぐり出していく。
「人間」がひとりも出てこないのに。

おぞましさから、K.W. ジーター(ドクター・アダーあたり)を連想したけど、このグラン・ヴァカンスに比べたら、しょせんあちらはスプラッタだなと思えました。
人の内面=本性のほうが、遥におぞましい。
それをこんなにも美しく書く、本書が、おぞましい。
いや、美しい、と感じる自分がおぞましいのか。


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