グラーグ57

まさか、ふたたびこの地に帰ってくることになるとは。
凍てつく寒さ、終りのない貧しさ、罪のない人を密告することでしか、自分の家族を守れない、この国……。

P9154635s
[ E-3 Zuiko Digital 25mm F2.8 ]

まさか、「チャイルド44」の続編が出ていたとは!
読みたくない!もう、あんなにつらい世界を味わいたくはない。
なのに、購入してしまった。そして一気読み。

ともかく、読み出したら止まらない。
でも痛々しい。まるで、その文庫本は、氷点下に曝された鉄格子のように、
触れた手を凍り付かせ、ページをめくるごとに、皮膚を剥がしていく。

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「グラーグ57 THE SECRET SPEEACH 上下」 トム・ロブ・スミス著
運命の対決から3年―。レオ・デミドフは念願のモスクワ殺人課を創設したものの、一向に心を開こうとしない養女ゾーヤに手を焼いている。折しも、フルシチョフは激烈なスターリン批判を展開。投獄されていた者たちは続々と釈放され、かつての捜査官や密告者を地獄へと送り込む。そして、その魔手が今、レオにも忍び寄る…。世界を震撼させた『チャイルド44』の続編、怒涛の登場。

レオに突きつけられた要求は苛酷をきわめた。愛する家族を救うべく、彼は極寒の収容所に潜入して、自ら投獄した元司祭を奪還する。だが、彼を待っていたのは裏切りでしかなかった。絶望の淵に立たされ、敵に翻弄されながらも、レオは愛妻ライーサを伴って、ハンガリー動乱の危機が迫るブタペストへ―。国家の威信と個人の尊厳が火花を散らした末にもたらされる復讐の真実とは―。

「チャイルド44」の続編です。

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「チャイルド44 CHILD 44 上下」 トム・ロブ・スミス著
この国家は連続殺人の存在を認めない。ゆえに犯人は自由に殺しつづける――。スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻ともども片田舎の民警へと追放される。そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説得した少年の遺体に酷似していた……。ソ連に実在した大量殺人犯に着想を得て、世界を震撼させた超新星の鮮烈なデビュー作!

この男は連続殺人の放擲を許さない。ゆえに犯人を孤独に追いつづける――。CWA賞受賞。本年最大の注目作! 少年少女が際限なく殺されてゆく。どの遺体にも共通の“しるし”を残して――。知的障害者、窃盗犯、レイプ犯と、国家から不要と断じられた者たちがそれぞれの容疑者として捕縛され、いとも簡単に処刑される。国家の威信とは? 組織の規律とは? 個人の尊厳とは? そして家族の絆とは? 葛藤を封じ込め、愛する者たちのすべてを危険にさらしながら、レオは真犯人に肉迫してゆく。

なんとなくソ連の密告社会のことは、スパイ映画などで知っていましたが、
こんなにも人の尊厳をないがしろにした、息の詰まる世界だとは。ヒドすぎる。
そんな世界で、その捜査すら糾弾の対象になる連続殺人事件を、主人公レオが追った前作。
感化されやすく感情移入甚だしい僕は、ともかく読み終えてこの世界から別れたいという一心で、一気読みしたものです。
読むのをやめるという選択はない。
それだけ、物語が、ストーリーが面白かった。

で、続編。またムチャクチャな悪夢が主人公レオを襲う。
でも下巻の最初の方で、ふと気付いてしまった。
ソ連版(24の)ジャック・バウアー?

厳しい環境を執拗に書き出す文体で、登場人物達の心情と人生を彫り上げる、鋭利な小説として、テレビドラマとは一線を画すものだと思っていたのですが、
帯にあるように「冒険もの」として見てしまうと、その面白さは、そういうスリルなのかと。

「ブレードランナー」「ブラックレイン」のリドリー・スコットが映画化するらしい。
気になる一方、心配です。

この物語は、文字で構成された小説として、価値がある。
映像も音もない、なのに、だからこそ、冬のソビエトの森が皮膚に刻まれていく。
その刻印なくして、登場人物達に寄り添えるわけがない。

そう思わせてくれる小説です。

アフリエイト目当てで、オススメっぽく書いてしまいますが、
気になったところも書いたりして。
ブダペストに入ってから、なんか、ちょっとマッタリした感じ。
舞台としては、より大がかりになったんだけど。

一方、この世界で言う、個人の尊厳に対する、国家とは、
様々な(しかもごく一部の)個人の欲望を核に、多くの人びとの意識が結晶していく、
生々しい人間の血が、赤い雪となって降り注ぐ現象だと思いました。
個人――国家――国家間。
根底は人の欲望。それが「自己実現」であったり「理想」であったり「保身」であったり、あるいは「家族を守りたい」というささやかなものであっても、
編み込まれていくことで、こうも歪んで醜くなっていくモノなのか。
誠実であるということで、人は救済されるのだろうか。
下巻の解説を読むと、なんと第3部があるらしい。
はたして……。


Comments

“グラーグ57” への2件のフィードバック

  1. nosakuの解説を読んでいたら『ゴーリキー・パーク』を思い出しました。
    主人公の警察官が殺人事件を調べて行くうちに、KGBやら
    ソ連の腐敗した官僚たちが立ちはだかるみたいな話だったと
    記憶しています。
    http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%80%88%E4%B8%8A%E3%80%89-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E6%96%87%E5%BA%ABNV-%E4%B8%AD%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E4%BA%8C/dp/4150406014

  2. コメントありがとうございます。

    Heayan san:
    nosakuの解説を読んでいたら『ゴーリキー・パーク』を思い出しました。

    これも面白そうですね!
    そういえば、「ソ連もの」?ではファイアフォックスを昔読みました。
    なつかしー。最新鋭機のアビオニクスの描写以外、
    全然覚えてないけど 😉
    鉄のカーテンの向こう小説、冷戦時代はたくさんあったんですよね。

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